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東京高等裁判所 平成12年(行ケ)15号 判決 2000年8月10日

原告

日亜化学工業株式会社

代表者代表取締役

訴訟代理人弁護士

品川澄雄

山上和則

吉利靖雄

弁理士

被告

豊田合成株式会社

代表者代表取締役

訴訟代理人弁護士

大場正成

尾崎英男

嶋末和秀

黒田健二

弁理士

主文

特許庁が平成11年審判第35005号について平成11年11月15日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1原告の求めた裁判主文第1項同旨の判決。

第2事案の概要

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「窒化インジウムガリウム半導体の成長方法」とする特許第2751963号発明(平成4年6月10日を第1の国内優先日、平成4年11月4日を第2の国内優先日として平成5年5月7日出願、平成10年2月27日設定登録。本件発明)の特許権者である。被告は、平成10年12月29日、原告を被請求人として、特許庁に対し、本件発明について無効審判の請求をし、平成11年審判第35005号事件として審理された結果、平成11年11月15日「特許第2751963号発明の明細書の請求項第1項ないし第4項に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決があり、その謄本は平成11年12月16日原告にに送達された。

2  本件発明の要旨

【請求項1】有機金属気相成長法により、次に成長させる窒化ガリウム層または窒化ガリウムアルミニウム層よりも低温で成長させるバッファ層を介して、バッファ層よりも高温で成長させた該窒化ガリウム層または窒化ガリウムアルミニウム層の上に、原料ガスとして、ガリウム源のガスと、インジウム源のガスと、窒素源のガスとを用い、同じく有機金属気相成長法により、窒化インジウムガリウム半導体を成長させることを特徴とする窒化インジウムガリウム半導体の成長方法。

【請求項2】前記原料ガスのキャリアガスとして窒素を用いることを特徴とする請求項1に記載の窒化インジウムガリウム半導体の成長方法。

【請求項3】前記窒化インジウムガリウム半導体を600℃より高い温度で成長させることを特徴とする請求項1または2に記載の窒化インジウムガリウム半導体の成長方法。

【請求項4】前記窒化インジウムガリウム半導体成長中、インジウム源のガスのインジウムのモル比を、ガリウム1に対し、0.1以上にすることを特徴とする請求項1乃至3の内のいずれか1項に記載の窒化インジウムガリウム半導体の成長方法。

3  審決の理由の要点

審決は、特許請求の範囲の請求項1の「原料ガスとして、ガリウム源のガスと、インジウム源のガスと、窒素源のガスとを用い、有機金属気相成長法により、次に成長させる窒化ガリウム層または窒化ガリウムアルミニウム層よりも低温で成長させるバッファ層を介して、バッファ層よりも高温で成長させた該窒化ガリウム層または窒化ガリウムアルミニウム層の上に、窒化インジウムガリウム半導体を成長させることを特徴とする窒化インジウムガリウム半導体の成長方法。」の記載につき、原告からされた、平成11年4月12日付けの明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正請求を認めて、本件発明の要旨を前記2のとおりであるとした上、請求項1に係る発明のうち、「バッファ層よりも高温で成長させた該窒化ガリウムアルミニウム層の上に・・・窒化インジウムガリウム半導体を成長させる」発明は、第2の国内優先日を基準にして新規性、進歩性等が判断されるものであるとし、本件請求項1ないし4に係る発明は、本件出願の第2の国内優先日である平成4年11月4日より前に出願された他の出願であって、本件出願の第2の国内優先日後に出願公開された特願平4-203084号(特開平6-21511号)の願書に最初に添付した明細書又は図面(先願明細書)に記載された発明と同一であり、しかも、本件出願の発明者が上記他の出願に係る発明者と同一ではなく、本件出願時において、本件出願の出願人が上記他の出願の出願人と同一でもないとし、本件各請求項に係る発明は、特許法29条の2の規定により、特許を受けることができない、と判断した。

第3原告主張の審決取消事由

本件特許については、本件無効審判手続とは別個に4件の特許異議申立てがあり、平成10年異議第75365号、同号の02、同号の03、同号の04として審理されたが、原告は、平成12年2月23日、

(イ)  本件特許明細書の特許請求の範囲の中から、「窒化ガリウムアルミニウム層」を削除して、「窒化ガリウム層」に減縮すること、

(ロ)  同じく特許請求の範囲の記載の中の「原料ガスとして、ガリウム源のガスと、インジウム源のガスと、窒素源のガスとを用い」なる語句の記載場所を訂正して、この原料ガスで成長させる対象は、「窒化インジウムガリウム半導体」であることを明瞭にすること、

の2つを主たる目的とする訂正請求を、上記特許異議手続の中で行った結果、平成12年3月1日、「訂正を認める。特許第2751963号の請求項1ないし4に係る発明の特許を維持する。」との異議の決定があり、確定した。その結果、訂正後の明細書又は図面に記載の発明には無効理由がなくなり、審決は違法となる。

第4審決取消事由に対する被告の反論

異議の決定において訂正を認められた請求項1は、特許法36条5項の規定に違反し、また、JAPANESE JOURNAL OF APPLIED PHYSICS VOL.30,NO.12A,DECEMBER,1991L1998-L2001頁及び特開平3-203388号公報に記載された発明から容易に発明することができたから、本件特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものである。これに反してされた原告主張の異議の決定の違法性は明らかである。

したがって、上記異議の決定があったとしても、審決を取り消すべき根拠はない。

第5当裁判所の判断

甲第8号証及び弁論の全趣旨によれば、原告主張のとおりの経緯、内容による異議の決定があり、同決定は確定したことが認められる。この異議の決定により、審決が認定した本件発明の特許請求の範囲の各請求項(前記第2の2)については、「窒化ガリウム層または窒化ガリウムアルミニウム層」の記載部分が「窒化ガリウム層」に訂正され、したがって、本件発明の要旨につき「窒化ガリウムアルミニウム層」が削除されて「窒化ガリウム層」のみに減縮する訂正があったことになるから、この訂正前の特許請求の範囲に基づき本件発明の要旨を認定し、本件発明は先願明細書に記載された発明と同一であるとした審決の判断は、その前提において結果的に誤ったことになる。そして、この誤りは審決の結論に影響があるものとして、審決は取消しを免れない。

被告は、上記異議の決定で訂正を認められた発明は特許法36条5項、29条2項の規定に該当すると主張するが、その主張の当否については、まず特許庁において別途審理すべきものであり、本件審決取消訴訟において審理することはできない。

第6結論

以上のとおりであり、原告の請求は認容されるべきである。

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 橋本英史)

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